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■第6節 射撃呪文は産廃なのか? |
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『ガープスの射撃呪文は使えない!』 …ガープス黎明期のユーザーならば、誰しも聞いたことがある言葉だろう。 そもそもガープスのシステムでは、射撃の手順が面倒で、準備から発射までの時間がやたらとかかることがよく知られており、その「使えない射撃」を呪文で再現したところで、誰からも見向きされなかった。 ここでは、そんな不遇の射撃呪文に焦点を当ててみよう。 本当に使えないのだろうか? |
■射撃の役割は何か? |
そもそもガープスのルールにおいて、射撃はどのような局面で使われるのだろうか? 現代の銃器とは異なり、中世レベルの射撃武器は威力があまり高くない事と、弾丸の飛翔速度が遅いことから、個人携帯の「盾」によって容易に防がれる。また、魔術師は《矢よけ》の呪文を始めとして、ミサイル(飛翔体)をかわす方法はいくらでもある。 そのため、決闘や少数戦闘において、射撃が有効になる局面は非常に少ない。時間をかけて発射をしたところで、回避されてしまう可能性が高いからである。 |
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一方、大規模な集団戦闘では、やはり盾持ちの敵には防がれてしまうものの、射手をたくさん用意する事で、手数で圧倒する事ができる(飽和攻撃)。 また、《矢よけ》が使える魔術師などは非常にレアな存在であるため、大集団全員を呪文で守る事などコスト的に不可能であり、射撃攻撃が全くの無駄になるという事はないだろう。 特に、大部隊を率いている軍勢は、兵士全員の攻撃を無駄なく叩きつけるためには、射撃は必須と言える。白兵戦のみだと、実際に隣接している兵士以外、直接的に手を出すことができないため、相手より人数が多い事のメリットが減ってしまう(兵員の補充が利くという点では優位性を保てるが)。 「遊兵(何もしてない無駄な人員)を作らない」という点において、射撃武器は軍隊に必須の存在なのだ。 つまり、 『複数の射手で一斉射撃を浴びせられる環境において射撃が有効』 という話になる。 |
■射撃呪文の問題点 |
以上を踏まえると、ガープス第3版の射撃呪文はデメリットの方が多い事に気付く。 1.射程が短い 一番困るのがこれ。ガープスの射撃呪文は、どうも「手投げ武器の一種」に分類されているらしく、射程距離が恐ろしく短い。わざわざ魔法で射撃手段を用意したのに、射程が手投げ武器と同じでは、使える局面が極端に限られてくる。 少なくとも、戦場における弓兵や弩兵と同じような運用はできない。 2.習得難易度とメリットが釣り合ってない 射撃呪文は、知力と「魔法の素質」という戦闘力に直結しない部分に大量のCPに要求され、複数の前提呪文の習得を強要された挙句、さらに別途で射撃呪文の命中判定に使う技能の習得も要求され、しかもそれは「敏捷力を基準とした肉体技能」である。 そのため、射撃呪文一個のために敏捷力や射撃技能にCPを投入するとか、かなり無駄の多い設計となる。 そこまでやって、射撃呪文の性能が射撃武器の性能を大きく上回るというのならまだしも、性能的には弓や弩とあまり代わり映えがしない。これでは、支払ったコストに対するリターンが全く釣り合わないと感じても仕方ない。 3.人数が揃えられない 2が直接の原因となっているのだが、最初に書いたように、ルナルのような中世ファンタジー世界における射撃の強さとは「射手の人数」である。 ところが射撃呪文の担い手は、そもそも成り手が少なく、人数が揃えられないという矛盾がある。性能が普通の弓や弩とだいたい同じなのに、人数を揃えられない射撃武器。そんなものに、利用価値はあるのだろうか? |
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4.隠蔽度が低い <火球>や<電光>に言えることだが、手のひらにエネルギー弾を出現させた時点で「光源」となり、射撃地点がバレてしまう。つまり、隠密性が低いのだ。 一応、<闇>の呪文で発射場所を隠すとか、<透明>の呪文で呪文ごと見えないようにすることは可能だが、更に呪文習得のためにリソース消費する事を考慮すると、「CP投資することを強いられているんだ!」と叫びたくもなる。 5.そして《矢よけ》で防がれる 結局、射撃呪文は射撃武器と同じ物理法則に従っているため、《矢よけ》の呪文一発で無力化されてしまう。別に《矢よけ》じゃなくとも、シールドを装備したり、《盾》の呪文で受動防御を上げる、《ぼやけ》の呪文で命中率を下げるといったアプローチでも、容易に回避できる。 なお、ガープス第4版では、さすがにこれらの問題を認めたのか、威力が大幅に底上げされている。第4版では、射撃呪文の威力が「魔法の素質」で大きく変動するシステムが採用され、最大で「ダメージ9Dの火球」が放てるようになっており、「敢えて射撃武器ではなく射撃呪文に頼る」意味があるように変更された。 要するに、3の「人数が揃えられない」部分をフォローする事で、射撃呪文の問題点を解決しようとしたのだと推測できる。 第3版においても、さすがに威力の拡大はバランス的に難しいが、「1秒の準備で最大「魔法の素質」レベル分のエネルギーを注入できる」といったようなハウスルールを導入できるようにしても良いかもしれない。要するに、「魔法の素質が高い術者ほど、準備時間を短くできる」のである。 このハウスルールを導入すれば、「魔法の素質3レベル」の術者であれば、1秒の集中で最大サイズ(致傷力3D)の射撃呪文を用意できるようになり、専業の魔術師ほど射撃呪文に手を出す意味が出てくるだろう。 |
■射撃呪文の良いところ |
一方、第3版の状況下でも、射撃呪文が便利な部分は存在する。 1.大型の敵への対抗手段 数多くの強力な通常・範囲呪文が存在する中、敢えて射撃呪文が存在する最大の理由がこれである。 通常呪文というのは、基本的に1へクスサイズの「人間および亜人種」にかける事が前提になっており、2へクス以上の大型の生物にかけることは想定していない。実際、それらに通常呪文をかけようとすると、余分なサイズ分だけのコストを要求されてしまうため、例えばドラゴンのような巨大モンスターが相手となると、到底払えるようなものではない。 仮にコストを払えるとしたら、それは効果の弱い初級呪文になるだろうが、そうして必死にエネルギーをかき集めて放ったとしても、巨大モンスターは元々高い能力値を持っているため、かなりの確率で抵抗されてしまうだろう。仮に上手く抵抗を突破したとしても、初級呪文程度の効果では、わずかな時間の足止めにしかならない。 つまり、コスト対効果の効率を考えれば、巨大モンスター相手に対しては、射撃呪文の方が効率が良いのである。 |
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また、サイズの大きい巨大モンスターは「自分に強化呪文をかける際、サイズ分だけ消費コストを倍化して支払わねばならない」ため、自己強化呪文が使い辛いという落とし穴がある。 そのため、《矢よけ》などの射撃対策の呪文による対抗策を取られにくく、こちらの射撃が無駄になるケースはあまりないだろう。 2.射程のある呪文が他にない 「射撃呪文は射程が短い」と言っても、それは専用の射撃武器(弓矢、弩)と比べた場合の話である。多くの呪文は、基本的に近接状態で使う事を想定しており、体力や生命力にCPが回らない魔術師にとって、敵に呪文をかける行為は接近を余儀なくされるため、かなりの危険を伴うのである。 しかし射撃呪文であれば、10~20メートルであれば十分届く範囲であるため、護衛戦士や障害物を挟んで後ろから呪文攻撃できる手段と考えれば、言うほど不遇ではないだろう。障害物が何もない&単独状態であっても、《空中歩行》や《浮遊》の呪文で飛行すれば、とりあえず近接は避けられる。 3.威力が体力に依存しない 魔術師に特化すればするほど、エネルギーは体力ではなく「財産」で準備するようになる。CP効率から考えると、体力を上げるよりもパワーストーンを購入する方が明らかに効率が良いからである。 そして射撃呪文は、基本的に呪文ごとに威力が固定されており、術者の体力の大小を問わない。準備時間こそかかるが、平均体力10に満たない人間が3Dダメージの射撃を行えるという点は、普通に見て有利である。 4.フルオート射撃モード TL3の環境下において、個人で扱える連射火器はほとんど存在しない。敢えて挙げるならば、〈準備〉技能でナイフを一瞬で取り出し、抜撃ちで投げる事で「連射」を再現できるが、これは明らかに名人芸の領域であり、誰でもできる事ではないし、ナイフ程度では射程が短く、威力も低すぎる。 そんな中、射撃呪文は疑似的なフルオート射撃武器として使えるメリットがある。ガープス第3版のルール環境では、射撃呪文の「発動」と「発射」は同じタイミングとして扱われるため、「抜撃ちかつ低威力」という条件を受け入れるのであれば、毎ターン射撃攻撃が可能である。 パワーレベル1での発射が前提であるため、貫通力が低く、強敵には通じないであろうが、装甲の薄い雑魚相手であれば、HPを削るために使う機会があるかもしれない。中世ファンタジー世界における「サブマシンガン」といった立ち位置である。 5.合法的に常備できる武器 別に射撃呪文だけに限る話ではないが、基本的に呪文は「装備品」ではないため、武器・防具が持ち込めない環境下でも「取り上げられる」事がない。例えば、社交パーティーに出席する時に、クロスボウを持ち込むようなことは普通はできないはずだが、射撃呪文なら「持ち込む」のも容易である。 また、野外のサバイバル環境においても「弾数無限の狩猟武器」として扱えるため、ロクな装備もない状況においても、生残性が大きく上昇する。 |
■面白運用 -射撃呪文編- |
以下、射撃呪文ならではの独特な運用方法を記録しておく。 |
●種(たね)マシンガン(弾丸掃射) 対象呪文:《石弾》 |
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雑魚のスケルトン相手に有効な戦術。 《石弾》の呪文を15レベルで習得し、近接状態で毎ターン「集中」→「ターン冒頭に抜撃ち発射」でフルオート射撃するというもの。 スケルトンは「叩き攻撃に弱い」という弱点と、パワーレベル1でも威力が高い《石弾》の呪文のコラボを狙った戦術。何も着ていない雑魚のスケルトン(生命力10)相手であれば、平均致傷力(叩き5点)で1ターンキルし続ける事も、理論的には可能である。 これは戦術案というより、《石弾》を習得した際の運用マメ知識である。呪文に大量のCPをつぎ込まなくとも使える戦術なので、覚えておいて損はないだろう。 |
●シュート・アロー(簡易ミサイル発射) 対象呪文:《飛ぶ剣》 |
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こちらもフルオート掃射戦術。 《飛ぶ剣》の呪文を20レベルで習得し、《豊穣の角》が魔化された矢筒から矢を取り出し、飛ばして攻撃する戦術。 1ターンの行動は「〈準備/矢〉で矢を準備(一瞬)」→「手に矢を持った状態で《飛ぶ剣》に集中(1秒)」→「次のターン冒頭で抜撃ち発射」→最初に戻るの繰り返しで、事実上毎ターン「刺し1D+1」の射撃を飛ばせる。消費コストは2点だが、呪文レベル20で消費を2点軽減できるので、事実上ノーコストで延々と撃てる。《豊穣の角》から無制限に矢が取り出せる事と、フルオート射撃が可能な射撃呪文とのコラボ。 鎧が薄い相手であれば、そこそこ有効だろう。種マシンガンとは異なり「刺し」攻撃なので、戦術的汎用性はある。ただし、この程度の威力のために《飛ぶ剣》に大量のCPをつぎ込んで採算がとれるのか?と言われると微妙。 なので、下の戦術とも組み合わせる事をお勧めする。 |
●ファンネル・ビット(多方向攻撃モード) 対象呪文:《飛ぶ剣》 |
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シュート・アロー戦術の応用。 《飛ぶ剣》の呪文を20レベルで習得し、上質のジャベリン($300 1kg)を何度も再利用して敵に飛ばすというもの(威力は「刺し 1D+3」)。 この呪文は「弾丸」を手で持っておく必要がないので、例えば背中に背負ってるバックパックからでも発射できる―――ミサイル・ポッドみたいなイメージの運用が可能。 あと、この呪文は、そこらにある任意の武器を射撃呪文として飛ばすため、必ずしも「弾丸」が自分のすぐ近くにある必要がない。例えば、3メートル離れた位置にある机の上に置いてあるダガーを敵に向かって飛ばしたり(発動判定-3)、一度飛ばして敵の足元に転がっている10メートル先の地面の槍を、再び呪文で敵に向かって飛ばす(発動判定-10)といった事も可能である。 |
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つまり、この原理を応用すれば、一度射撃に使って敵の背後に落ちているジャベリンなどを、呪文を使って再びその場から飛ばす事で、「ガンダムに登場するファンネル・ビットのように、敵の背後から射撃を飛ばす」ような事も可能である(ルール的には「側面攻撃」扱いになるだろう)。敵のシールドの受動防御を無視して当てられる点で、そこそこ有用な戦術である。 ただしこれをやるには、《飛ぶ剣》の呪文レベル自体がかなり高くないと駄目なので(飛ばす物体までの距離が、そのまま発動目標値のペナルティになるので)、遠方への射撃が頻発する状況では行えない。また、消費コストが最低2点必要な呪文なので、連続でやろうとすると、やはり20レベル以上はないときついだろう。 この戦術は、上記の「シュート・アロー」戦術と併用する事で、どうにか投資CPに見合った採算がとれるのかもしれない。 |
●メガンテ(保護自爆) 対象呪文:《爆裂火球》+《防熱》 |
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自身に《防熱》の呪文をかけた上で、自身の近くのへクスに《爆裂火球》を叩きつける。自らの呪文の爆風に巻き込まれ、壮絶な自爆となるが、炎無効状態なので自滅はしない。 近い場所を射撃するため、〈呪文射撃〉のレベルが低くても確実に命中させる事ができるといったメリットがある。また、小さい生物の「群れ」に襲われた際、この手法で敵を効率よく駆逐できるだろう。《爆裂火球》以外にも、《火炎》や《聖火》の呪文との連携も考えられる。 《防熱》の呪文はコストが安く、15レベル以上あればノーコストで延々と維持し続けられるので、別にこの戦術を使わない場合でも、《爆裂火球》の誤爆で仲間が負傷しないため、かけておくのは無駄ではない。 |
●マスドライバー(強制打ち上げ) 対象呪文:《騒霊》 |
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《騒霊》は射撃呪文ではあるが、実は25キロ以内の重量であれば、生物を飛ばす事もできる(飛ばされたくない対象は生命力で抵抗可能)。これを利用して、体重が25キロ以下が平均の種族(ミュルーンやフェリアなど)をぶっ飛ばそうという案。 戦闘利用する場合は、敵のミュルーン傭兵やフェリアのテレパシー能力者、超小型のモンスターなどを「吹き飛ばし+ダメージを与える」ような使い方になるだろう。飛ばされた相手は目標地点まで飛ばされた挙句、命中した場所or個人と飛ばされた本人に1D(体重5キロ以下)~1D+1(体重25キロまで)のダメージを与える事になる。攻撃と強制移動を兼ねた手段と考えれば、割と効率の良い駆逐方法である。 一方、非戦闘時に使用する場合は、主に味方を「発射」する使い方になるだろう。《騒霊》の最大射程は60メートルなので、空に向かって飛ばす事で、一気に飛行状態へと移行できる。「緊急発進!」みたいな使い方になるだろう。 飛ばされる本人は、こんな手法は拒否するかもしれないが… |