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■第19節 ルナルは永世者で溢れないのか? |
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魔法が実在する世界では、呪文によって寿命の枷を取っ払い、種族の限界寿命を超えて生き続ける魔術師がしばしば登場する。ここでは、そういった存在を永世者と呼ぶ事にする(将棋や囲碁のタイトル・ホルダーとは関係ないので念のため)。 ルナル世界は、永世者が存在する可能性がある世界の1つであり、「ガープス・マジック」の全呪文を習得できるウィザードおよびソーサラーを始め、一部の月の眷属も僧侶魔法として可能である。 さらに、ヴァンパイアなどの生と死の狭間で存在し続けるアンデッドも含めると、永世者で溢れかえり、社会的な「代謝」が起こらなくなって(国王がいつまでも同じ人で人事異動が起こらないなど)、社会制度や文明が停滞・滅亡してしまうのでは?と予想できる。 だが、ルナルではそのような関連の社会問題は起きてないようである。 それはなぜか? |
■魔術師が少ない |
ファンタジー世界ではよく使われる理由であるが、比較的魔法がありふれたルナルにおいても、魔法の素養者はレアな存在である。 |
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〈源人〉の隔世遺伝種であるウィザード。 その素養をもって生まれてくる者は、人口1,000人につき1人で、その中でウィザードの師匠に拾われる確率は10分の1である。つまり、人口1万人の都市1つでウィザードはわずか1人しかいない。 そして、その選ばれた栄光あるウィザードの全員が、必ずしも不老の術を習得して長い寿命を獲得するわけではない。さらに、TL3の慢性的に食料不足の中世社会である事から、現代地球ほどの膨大な数の人口を養えるわけではない。 |
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なお、双子の月信者の中にも一応、不老状態を維持できる者は存在する。原作および当サイトの改変ルール下でも、ファウンの高司祭は《老化停止》の呪文を習得可能だし、レスティリ氏族のエルファも普通に《老化停止》や《若返り》の呪文を習得可能である。 ただしこれらは、宗教的制約によって「不自然な長寿」を禁じている者たちであり、よほどの特殊な事情(ソーサラーに捕まって《若さ奪取》で寿命を奪われた犠牲者を助けるとか)がなくては、そういったものを使う事はほぼないだろう。 よって、少なくとも現在のルナルにおける主要種族である人間・ドワーフ・エルファにおいて、魔法で不老状態を維持する者は、一部グレてしまった破戒者や、極めて特殊な事情の持ち主(ナーチャ信徒が不死化して超長期任務に当たる等)を除き、基本的には存在しないはずである。 |
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あと、銀の月の眷属のうち、治癒系呪文を習得できる種族がそれらの呪文を習得し、不老を獲得しているケースがあるかもしれない(教義的に特に禁じる理由はない)。 ただし、銀の月自体の歴史は古く、全盛期はとっくの昔に終わってる種族である。そのため、そもそも種族人口が圧倒的に少なく、その中からさらに不老になれるレベルの魔術師というと、下手するとウィザードと同じくらい少ないかもしれない(その辺は各卓のGMの裁定による)。 また、銀の月の社会は基本的に全体主義国家であり、理不尽なほど個人を軽視する超合理化社会である。必要とあらば誰でも生贄に捧げ、それを拒否する事もない。そのような環境下で、特定個人を選別して延々と生き永らえさせる事は、社会的な不平等を招き、信者全体の士気を下げる結果にしかならず、積極的に行われるとは考えにくい。 ―――こうして見ると、「魔術師の人口が少ない」というのは、永世者が極めて少ない理由としてオーソドックスかつ妥当な理由と言えるだろう。 なお、当サイトのレポートでは頻繁に魔法の素養者が登場するが、これは冒険者という非常に特殊な稼業をメインに扱っているからであって、普通はそう頻繁に魔術師が用意できるわけではない事に注意してもらいたい。 |
■コストの壁 |
別に魔術師でなくとも、金を出して定期的に《老化停止》の呪文をかけてもらったり、「若返り」のエリクサーを定期購入する事で、一般人が永世者になる事は可能である。 しかし、上記の「魔術師が少ない」条件により、それらは非常にお金がかかる行為であり、一般人はもとより貴族であっても、相当な出費を覚悟せねばならない。 呪文をかけてもらう費用はルールにはないが、「若返り」のエリクサーの価格は掲載されており$25,000となっている―――これは「財産/大金持ち」(30cp)の有力貴族でも、1年で家ごと資産が吹っ飛んで破産する額である。そして、ここまでして1人の人間の寿命を保ったとして、果たして意味があるのだろうか。 (「聖なる母の結社」が企む遠大な計画のように、それに意味があるケースも稀に存在するのかもしれないが…) この時点で、少なくとも民間人の永世者が現実的でないと分かる。 まぁ、うまく魔術師の「愛人」枠に転がり込んだ民間の美女ならば、100~200年くらいなら若さと美貌を保つために不老処置を受けれるかもしれない。だが、その術をかけてくれる魔術師本人がいなくなれば、永遠の夢はそこで終わる。 |
■事故死の確率 |
100年も存在していれば、普通は何らかの事故に遭遇し、一定確率で死ぬはずである。まして300年やら500年やら生きていて、そういう事故に全く遭わない方が不自然である。 そしてウィザードともなれば、《大祈願》の魔化でファンブルして知力が1点低下し、さらに6Dダメージを受けるとか、エリクサーの作成でファンブルして研究所ごと爆発して6Dダメージを受けるとか、別に荒野でモンスターに遭遇せずとも命がけのデスクワークは存在する。 |
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まぁ、実際にそれを統計したデータなどは存在しないとは思うが、300年も生きていたら、普通は何らかの危ない事故に何度か遭遇し、それのどれかで引っかかってお亡くなりになる可能性は相当に高いと思われる。 |
■精神が持たない |
現実世界でよく挙げられる「永遠に生きる事は難しい」とされる理由の1つだが、「自身の種族の寿命を超えて生きていても、精神的にモチベーションが持たない」というものがある。仮に、サイボーグ化によって肉体年齢が維持できるようになっても、脳細胞は基本再生不可で死滅していく一方なので、そこを解決しない限り、精神的に「寿命」が来る可能性がある。 またこれは、高度文明におけるサイボーグの「寿命」が短くなる理由として使われる事もある。高度文明では情報化社会となるため、中世に比べると脳の仕事量がとんでもなく増えるためだ。つまり、処理すべき情報の量が多すぎて脳が酷使された結果、「脳的な寿命」はむしろ現代社会(TL7)よりも短くなる可能性がある(これは現実でも起こるかもしれない)。 話をルナルに戻すと、ルナルのようなファンタジー世界では、各種族ごとに決められた肉体的な「寿命」(ルール的には老化判定が始まる頃)を境として、精神面で「脳の情報処理量が限界に達し、後は生きる気力が摩耗していく一方」なのかもしれない。 |
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例えば、長寿で知られるエルファの寿命は400年ほどだが、レスティリ氏族の呪文(《若返り》など)でこれを伸ばしたところで、500年目くらいには「もうこの世とおさらばしたい」と思うようになるのかもしれない。 たとえ、脳細胞を含む肉体が若返ったところで、脳に蓄積された情報量は減らないため、維持する記憶量は増大する一方であり、身体的には負担になりこそすれ、プラスに働くことはないだろう。 まして、元種族が人間である事が圧倒的に多いウィザード種族などはもっと短く、200年ほどしたらそう思い始めるのかもしれない。 これを回避するためには、過去の一部あるいは全てを「きれいさっぱり忘れる」機能が必要になるだろう。一部作品では、そのへんの配慮が見られるリアルな設定が存在しており、脳の情報量が過多状態になってオーバーフローでバグらないよう、「やたら物忘れが酷い永世者」が存在する事もある(GS美神のドクター・カオスなど)。 おそらくルナルにおけるヴァンパイアを始めとするアンデッドたちは、この機能が存在していると思われる。「やたら物忘れが酷いヴァンパイア(=容量を空けるために頻繁にデリート)」とか「やたら物覚えが悪いグール(=容量が少ないのでインプット拒否)」とかが普通に存在するわけだ。 だが、生きた状態で永世者である者には、それができないのかもしれない…《忘却》や《記憶操作》の呪文を自分自身に使えば、あるいは可能かもしれないが。 |
■神にならざる得ない |
逆に、上記のトラブルの数々を奇跡的に回避したとして、年数を経て魔術を極めて強大な存在になると、結局のところ「神に等しい存在」になるわけで、そうなると肉体は維持コストがかかる分、邪魔なだけである。 となると、実力のあるウィザードは自発的に現在の肉体を捨て、元種族とは別の強靭な種族の体に入るとか、いっそ情報生命体(≒幽霊)として身軽になった方が良いだろう。この時点で、少なくとも生まれた時に持っていた肉体は喪失する(社会記録上では死亡扱い)。 実はルナルのリプレイでも、それと思しきNPCウィザードが登場していて、彼女は生まれてから1000年経った現在、双子の月の神々に依頼されて、地上における「神様の代理」をしていた元ウィザードであった(詳細は「天空の蹄篇」を参照)。 |
■現世は踏み台に過ぎない |
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これは、ルナル世界のウィザード特有の理由である。 ルナル世界のウィザードは、基本的に地上の物理世界を「初期の修行場」と見なしており、今は〈源初の神〉なき白き輪の月を「1段階上の修行場」と見なしているという種族設定がある(ガープス・ルナル完全版p76)。 そのため、地上で好きなジャンルの魔術を極め、同業者の競争相手がいなくなると、それ以上の技量向上が難しくなるといった理由から「そろそろ地上で学べることもなくなったし、輪の月にでも行くか」となるのかもしれない。その年数はベースとなる人間種族の寿命に等しいのか、あるいは上の「脳がオーバーフローを起こしそうになる」年齢である200歳前後だろうか。 なお、白き輪の月には神こそいなくなっているが〈天使〉たちが今も住んでいるため、〈源初の神〉が行っていた世界創成や異次元移動のための魔術実験のデータは、〈天使〉という生きた記憶媒体によって保存されているはずである。 肉体を抜けて月に至ったウィザードの思念は、〈天使〉が保持しているこれらのデータを元に更なる魔術の研鑽を行い、源初の神を追って〈至高なる輝きの地〉を目指したり、あるいは複数の平行世界を渡り歩くプレインズ・ウォーカーになったりするのだろう。 (完全に余談だが、ルナルにおけるウィザード種族とは、おそらく種族的に「灯」(スパーク)を持って生まれ、MTG(マジック・ザ・ギャザリング)で言うところの「プレインズ・ウォーカーになれる資格者」なのだと推測できる。) そういう将来設計が立てられる種族と考えれば、ルナルのウィザードたちが地上に残り続ける意味は、ほとんどないのではなかろうか。 |
■目的意識がない |
これは、上記の「精神が持たない」の項目で説明したアンデッドの事情である。 |
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おそらく大半のアンデッドたちは、魔術的に脳のメモリーを頻繁にリセットしたり、そもそもメモリーに情報を入れない事で、肉体だけでなく精神的にも「不老」を保っていると思われる。 だが、そのような記憶操作を日常的に行う存在が、まともな日常生活を送ったり、社会貢献できる活動が可能かというと…ほとんどのアンデッドが、大した理由もないのに冒険者の敵として立ちはだかり、ロクな情報も吐かずに昇天していくのを見るに、おそらく不可能であり、精神的にバグっている可能性が高い。 ―――それが、アンデッド化という拙劣な不老不死の代償なのだろう。 いうまでもないが、ただ遺跡や廃墟をうろついてるだけの連中が、文明や組織に干渉できるわけがない。「壊れて誤動作しているロボット」以上の存在ではないのだから、大量に存在したところで社会的影響は少ないだろう。 |
■異常な永世者は駆逐される |
ソーサラーとなって永遠の不死を追い求めた者、または一部の理性を保ったままアンデッド化したヴァンパイアなどの場合、一応の理性を保ったまま活動している…が、アンデッド化による不死など目指す者は、大抵は元から性格が歪んでいるか、長期稼働により元は小さかった性格の歪みが年月を経て大きくなっており、反社会的な存在となっている事がほとんどであろう。力に奢った結果、新しい発見が欲しいあまり非人道的な実験を行ったり、社会に配慮せず実験用の物資を強奪したりするわけだ。 よって、そのような存在はガヤン神殿騎士やら正義の冒険者やらによってつけ狙われ、(確率の法則により)いつかは討伐されてしまうだろう。 結局のところ、肉体が永遠に存在できても、精神が社会情勢の変化についていく事ができず、社会常識から大きく外れるほど歪んだ結果、社会全体を敵に回してしまい、それによって淘汰されてしまうのだと考えられる。 無論、そうでない「正常なまま稼働し続けてる者」も、ごく少数ながら存在するかもしれない。だが、そうなると今度は当人の実力が「神」に近づいてしまい、上記の「神にならざる得ない」の項目に引っかかる。結果、「永世者」としての人生はそこで終わる事になるだろう。 |
――――色々と考察したが、上記のような様々な理由により、 「そもそも永世者になれる者が極端に少ない」 「永世者の状態で時代の変化に適応し続ける事が難しく、どこかのタイミングで肉体を喪失するか、あるいは上位存在になる事で永世者を止める可能性が高い」 …と考えれば、ルナル世界に「数百年生きてるウィザードがあまりいない」理由として納得できるのではなかろうか。特にルナルのウィザードの場合、現世が最終目的地ではない事が理由として大きいため、1000年単位で生きる極端な永世者がいないのは必然であろう。 これにより、永世者が溢れかえっておかしな社会が形成される事なく、我々の世界とあまり変わらない世界が成立しているのであろう。 |
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様々なファンタジー世界で頻繁に登場する「数千年存在し続けるヴァンパイアやリッチ」などといった存在は、普通に考えれば極めてレアリティが高い存在であると考えた方が合理的である。冒険者という非常に特殊な職業をプレイする関係で遭遇機会が多いというだけで、世界観的には気軽にポンポン出てくる相手とは言えないだろう。 |