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■第21節 呪歌
 一部のファンタジー世界では、歌や旋律が魔法的な効果をもたらすものが存在する。これを一般に「呪歌」という。

 TRPGで明確に魔法体系の1つとしてルール化された呪歌というと、「ソードワールドRPG」が日本ではおそらく初だろう。当システムの初版(1.0バージョン)で初登場した呪歌は、聴衆全てに無差別で効果を発揮するという使いにくいものではあったが、非戦闘員の吟遊詩人が戦闘でも活躍可能になる実質「呪文の一系統」であった。また、同世界の他の魔術とは仕組みが異なる事から、魔術師キャラクターに多様性を与える存在でもあった。

 そこで当レポートでは、呪歌をルナル世界でも再現しようと試みる事にした。基本的には「ガープス・マジック」と同じ呪文ではあるが、発動条件に特殊性を持たせて制限をかける一方、より広範囲・多人数に影響しやすいものを作成してみる事にする。
 管理人がそういう考えに至った動機だが、ガープスの環境下における魔術師とは、一般のファンタジー世界における魔術師のように「格下の敵集団を駆逐する」能力が乏しく、どちらかというとスターウォーズのジェダイの騎士のような「1対1が超強い魔法戦士」的な存在である事から、戦士とあまり明確な差がなくてつまらないという思いがあったからだ。

 実は、ガープス第4版の未訳サプリメント「GURPS Magic: Artillery Spells」には、砲兵系呪文と呼ばれる、雑魚集団の駆逐に適した強力な範囲攻撃魔法もあるにはある。ただそれらは習得条件や支払いコストが厳しく、100cp帯のキャラクターが使うようなものではない。
 なのでここでは、100cpのキャラクターでも習得・利用でき、主に集団相手に役立つ「魔法の歌」の開発を試みたい。


 なお、当サイトでは呪歌を模した呪文を「旋律系呪文」と呼ぶ事にする。
 以下、その開発の記録である。
■プロローグ
 ルナル世界では、リャノ神の下位従属神として赤の月にゲスト登録されているイアですが、この世界出身の女神ではありません。

 彼女は「ARIA ON THE PLANETES」(アリア・オン・ザ・プラネテス)と呼称される、ルナルからは遥か遠い(ほとんど共通点がない)歴史平行世界の出身であり、出身世界では数少ない目撃者から「七色に光る魂を持つ精霊」という異名で呼ばれているようです。「イア」という名前は自分で名乗り始めました…現地の言葉で「情報統合設計者」(Information Architect)の頭文字をとって付けたものらしいです。

 ARIAの人類は、テクノロジーだけで文明を発展させていたのですが、宇宙開拓が始まってしばらく経ったある時、人類発祥の星マンホームから隣の惑星アクアに移住を行うため、大規模な惑星改造が行われる事になりました。
 かつては、酸化鉄で赤色に染まった不毛の荒野だった惑星アクアですが、おおよそ50年に渡るテラフォーミングの後、マンホームに匹敵する豊かな水の惑星へと変貌します。

 そんな人工天体で、度重なる人類同士の戦争と命がけのアクア開拓で疲れきった人々の、平和と安らぎを求める願いから生まれたのが彼女でした。
 その惑星アクアでは、相変わらずテクノロジーで文明が成立しているのですが、惑星のマナ濃度は「標準」であり、人々が魔法の実在を知れば魔法文明としてもやっていける星です。実際、マンホームの原生動物の一部(猫)がアクアに移住した際、マナの影響を受けて知性が大きく向上した事例が報告されています。
 しかし、テクノロジー1本で発展してきたARIAの人々は、その変化の本質に全く気付いていません(TL10までテクノロジー1本でやって来た世界なので無理もないですが…)。

 一方、精霊として発生した彼女は、その事実にすぐ気づきました。そこで、人々に代わって精霊である自分たちが協力して魔法を発展させようと、同志を探し求めました。
 しかしこの世界の精霊たちは、連携して何かする協調性に欠けました。実力のある精霊たちは、それぞれが個別に覇を唱えて自分より弱い精霊たちを従属させ、「唯一最強の神」を気取る者が大半だったのです。一方で従属が苦手な弱い精霊たちは、次元が異なる隠れ里に引き籠り、人間と疎遠の生活をしていました。
 覇権抗争か、世捨て人か。そんな殺伐とした精霊業界(?)になじめず、自身の実力と対等の協力者を見つからなかった彼女は、仕方なくたった一人で魔法体系の学問化と開発を進めます。

 低いマナ濃度ゆえ、魔法ではなく運勢操作で人々を導いてきた神々。
 魔法など誰も信じない、鋼鉄と電力インフラに支えられたテクノロジー文明社会。

 ―――そんな世界で、どうやって魔法の恩恵を伝えれば良いのか?


 途方に暮れていたイアですが、試行錯誤の末に1つの回答を得ました。テクノロジーと魔法の接点を見つけたのです―――それは「歌と旋律」でした。
 テクノロジー文明においても、芸術として歌や旋律の文化が発展しており、それを聞いた人々は精神的にリラックスする事で、魔法みたいな影響を受けていました。つまり彼女は「歌や旋律に魔力を込めて拡散すれば、人々に魔法の恩恵を与えられる」と気づいたのです。
 こうして孤独な歌の精霊イアは、旋律系呪文を完成させました。
 ARIAの人々は、どこからともなく聞こえてくる少女の歌声を聞いて、「まるで魔法のような」不思議な加護を受けるようになりました。イアの愛と平和の歌により、異世界ARIAは人間同士の戦争が起きない平和な世界へと進化しました。

 この偉業により、もはや精霊ではなく、一個の「神格」としてようやく自信を持てた彼女は、今度は量子レベルが異なる別の歴史を辿って来た平行世界にも、自身の「発明品」を届けようと試みます。その世界の1つが「ルナル・サーガ」の世界です。
 彼女がこの世界に特に興味を持ったのは、「発祥からして完全に魔法文明世界なのに、なぜか現地の神々はテクノロジー文明に移行しようと誘導している」という、かつて故郷で自身が体験した事とは全く逆パターンの事をしているのに気づいたからでした。
 「テクノロジーと魔法をつなぐ接点として、自分が開発した呪文が役に立つのでは?」―――もはやARIAとは文化的に断絶している、ほぼ別世界のルナルにやってきた真意はそこにありました。

 それともう1つ。
 ここには、自分より遥かに高位の神格がたくさん存在していて、なおかつ故郷世界のそれとは異なり、神格同士が互いに助け合い、協力して生命や文明発展を支えている事実も、彼女がここに引き寄せられた理由になりました。
 というのも、故郷世界の彼女は生まれてからずっと孤独であり、「親」と呼べる存在も皆無でした…誰かに甘える事ができなかったのです。そのせいで精霊同士のコミュニケーション不足により、感情表現に乏しい「人形」みたいな冷たい存在になっていました。
 ですがルナルでは、まだ未熟な神格の彼女を支えてくれる先輩の神々と平和的に交流でき、それらを通じてイアは、ようやく「人」としての豊かな感情を手に入れたのです。彼女はこの世界に、とても恩義を感じていたのでした。


 ―――そして今、その恩を返す時が来たようです。

 以下、異世界出身の女神イアが開発した旋律系呪文のルールとなります。
■旋律系呪文の開発
【概要】
 グループSNEが開発したTRPG「ソード・ワールド1.0」(初版)の呪歌と同様の呪文を「ガープス・ルナル」の環境で追加します。
 基本は「ガープス・マジック」の呪文をカスタマイズし、広範囲・多数の標的に効果を及ぼせる代わりに、発動条件を厳しくして集中時間を増加させ、呪文の効力と持続時間が大きく減少した感じで設計されます。
 なお、本家呪歌と混同を避けるため「旋律系呪文」と呼称します。旋律系呪文は、音声系呪文であると同時に、ベースとなる呪文と同じ系統呪文でもあります。

■基本設計
 ベースとなる呪文は、「ガープス・マジック」の既存の呪文から選択します。効果縮小要素があるため、なるべくパワーレベル制の呪文が望ましいと言えます。

 旋律系呪文の効果は、
元呪文のパワーレベル1の効果に固定されます(例えば《すばやさ》の呪文をベースにした場合、パワーレベル1の「敏捷力+1」で固定)。しかも必要コストは、最大パワーレベル(通常は5)で放った時と同量を要求されます。
 その代償の代わり、呪文の目標は
「術者の視界内(距離制限なし)」でかつ「最大で10体(サイズが大きい場合は1へクスで「1人」と数える)まで同時に取れる」ようになります。

 この特殊な標的の取り方は、旋律系呪文の基本構造に組み込まれている《拡声》の呪文の標的の取り方を利用している事に起因します。イメージとしては「《拡声》の呪文で声の代わりに魔力を込めた歌曲を飛ばして聞かせてる」といった感じです。
 無論、そのままだと無制限に目標を取る事になり、際限なくコストを要求されてしまうため、ターゲット数に制限をかける事で人間が支払えるレベルのコストに抑えられています。

■準備の条件
 通常の呪文を使用する時、「音声による呪文詠唱」と「動作」による集中が必要になりますが、旋律系呪文では
「術者の歌唱行為」「楽器による旋律演奏」に置き換わります(演奏する曲に指定はありません。術者の選んだ曲を使えます)。
 「歌唱」と「演奏行為」は、どんなに呪文レベルが上がっても省略する事はできなくなります(たとえ瞬間発動でも、ターン冒頭に一瞬の歌声と演奏が必要)。また《永久の旋律》が魔化された楽器で演奏中でも、歌声が必要になります(旋律系呪文でない通常の呪文は演奏だけでOKです)。

 このような仕様のため、「対象に気づかれないよう静かに呪文をかける」使い方は一切できなくなります。また、
目標の聴覚が働いていない場合、旋律系呪文は一切の効果を与える事はできません(物品など非生物が対象の場合は除きます)。
 例えば、相手が旋律系呪文に備えて耳栓などしていた場合でも、呪文をかけても効果を発揮しません。ただし、「咄嗟に手の平で両耳を塞ぐ」程度の簡易動作では、完全に音をシャットアウトする事はできません(事前に耳をしっかり防ぐくらいの処置が必要)。

■準備時間
 旋律系呪文の基本構造は、音声系の《拡声》とベースとなる元呪文の組み合わせになっています。そのため、準備時間は単純にこの二つの合計になっています。《拡声》は準備2秒、これに元呪文の準備時間が加算されます。

■判定時の基準目標値
 呪文の判定目標値は、
使用する旋律系呪文、〈歌唱〉技能、〈楽器〉技能の3つの中で、最も低いレベルが採用されます。このため、〈歌唱〉と〈楽器〉レベルが十分に高ければ、呪文の判定に不利な影響はありません。
 なお、〈歌唱〉や〈楽器〉が低いため、目標値が呪文レベルを下回る事があっても、熟練による消費コスト軽減や準備時間の減少の恩恵がなくなる事はありません。
■判定時の距離修正
 まず「集中」開始時に、具体的にどの目標に影響を及ぼすかを決めておく必要があります。この時に取れる目標は基本設定で書いたように、術者の視界内であれば距離に関係なく取る事ができます(極端な話、地平線4.5キロ先にいる標的も、見えているなら標的に取れます)。取れる同時標的数は10体(合計10へクス)までです。
 そして必要な呪文の発動にターン数だけ「集中」を行った後、発動タイミングで「一番遠いところにいる標的」を基準に距離修正が決まります。この時、呪文にかかる距離修正は通常の「1メートルごとに-1」ではなく、情報呪文に適応される
「呪文の遠距離修正値」を用います。

★呪文の遠距離修正値
100m未満:±0 1㎞まで:-1 2㎞まで:-2 5㎞まで:-3
20kmまで:-4 100kmまで:-5 200kmまで:-6 500kmまで:-7
1500kmまで:-8 さらに1500kmごとに:-1

 ―――ガープスで想定されるほとんどの個人戦闘では、おそらく距離修正は0(100m未満)で収まるはずです。なお、術者の「集中」の間に対象が物影に隠れるなどして術者の視界外に出た場合、見えなくなった目標は呪文の対象から外れます―――まだ残ってる目標の中から、一番遠い者を基準に距離修正を求めて下さい。

 呪文の発動判定は、
術者の呪文判定を1回だけ行います(標的の中に「魔法の耐性」が持つ者がいても、判定にペナルティは発生しません)。旋律系呪文が抵抗呪文の場合、その時の成功度を覚えておいて下さい。その成功度に対し、各目標が個別に抵抗判定を行う形になります。
 なお、抵抗側で「魔法の耐性」を持っている者は、旋律系呪文は一律「範囲呪文」と見なし、倍の抵抗力ボーナスを得ます(1レベルごとに抵抗力+2)。

 原作「ソード・ワールド」の呪歌とは異なり、術者の視界にいない場合、たとえ歌と旋律が届く範囲にいても呪文の標的にできない事に注意して下さい(《拡声》の呪文の目標の取り方がそういう仕様であり、視界から外れると声が届かない→効果を与えられないという一律処理がなされるためです)。

■消費コスト
 パワーレベル制の呪文を最大パワーレベル5で放った時と同じ消費を要求されます。パワーレベルに上限がない呪文や、パワーレベルの最大が5未満の呪文の場合、便宜上パワーレベル5として消費コストを計算します。
 また、元呪文がパワーレベル制でない通常呪文の場合、5倍消費が目安となります。元呪文が範囲型の場合は、3倍拡大の消費量を目安とします。

 なお、全ての旋律系呪文は術者の任意で
消費コストを倍化する事で、選択可能な標的数も倍にする事が可能です。2倍消費で20体、3倍消費で30体…といった風に標的数を増やす事が可能です―――コストさえ支払えるのであれば、軍団レベルの大人数を強化する事も理論上は可能となります。

■持続時間
 元呪文の10分の1に短縮されます。
1分(60秒)→6秒 10分→1分 1時間(60分)→6分
8時間(480分)→48分 1日(24時間)→2時間24分

 なおこれらは、リャノ信徒の神殿装備《永久の旋律》が魔化された楽器により
「演奏が続いている間」に上書きする事が可能です。この場合は楽器の演奏が続く限り、発動した呪文が永遠に持続する事になります(1分毎に演奏継続のための〈楽器〉判定が必要)。

 なお、《永久の旋律》が魔化された楽器による呪文の維持は、楽器演奏が聞こえる範囲までですが、旋律系呪文の基本構造に含まれる《拡声》の効果により、目標が見えている限りは魔法で声が届くので、直接聞こえない距離まで遠ざかっても効果は持続し続けます。
 ただし、目標が物陰に隠れたり、術者の視力では見えなくなるほど遠方に行ったりすると、呪文の音響効果が切れて音が届かなくなるので、呪文効果も即座に切れてしまいます(普通に音楽が聞こえる範囲にいても、術者の視界から外れると途切れるとします―――これは《永久の旋律》ではなく、旋律系呪文の仕様上の理由です)。
 《永久の旋律》の効果範囲の詳細は、リャノ信仰のページにあります(→こちら)。

■前提呪文
 音声系呪文《拡声》が必ず前提呪文に入ります。その他、素質1に加えてベースとなる元呪文も前提となります。
■旋律系呪文一覧 (全12種)
平和の歌(ピース) 特殊/知力で抵抗 ――――音声系・肉体操作系
 選択した対象全員(最大10名)に《不器用》の呪文をかけます。抵抗に失敗した者は、敏捷力および敏捷力が関わる技能レベルに-1の修正を受けます。
 ■持続:6秒
 ●消費:5・維持は半分
 ◆準備:3秒
 ★前提:「素質1」《拡声》《不器用》

規律の歌(モラル) 特殊 ――――音声系・肉体操作系
 選択した対象全員(最大10名)に《すばやさ》の呪文をかけます。敏捷力および敏捷力が関わる技能レベルに+1の修正を受けます。
 ■持続:6秒
 ●消費:10・維持も同じ
 ◆準備:3秒
 ★前提:「素質1」《拡声》《すばやさ》

行進の歌(マーチ) 特殊/生命力で抵抗 ――――音声系・肉体操作系
 選択した対象全員(最大10名)に《うすのろ》の呪文をかけます。移動力と「よけ」に-1のペナルティを受けます。抵抗に失敗した者は、移動する際に旋律に合わせて強制的に行進ステップを行うようになり、走ろうとしても早歩きの要領で一応走行できますが、常に速度の上昇を妨げられます。
 ■持続:6秒
 ●消費:5・維持も同じ
 ◆準備:3秒
 ★前提:「素質1」《拡声》《うすのろ》

慰安の歌(レストア・メンタルパワー) 特殊 ――――音声系・治癒系
 選択した対象全員(最大10名)に《体力賦与》の呪文をかけます。回復する量は1点です。連続してかけ直せば、じわじわと疲労が回復する演出ができます。
 ●消費:5
 ◆準備:3秒
 ★前提:「素質1」《拡声》《体力賦与》

起床の歌(アーリーバード) 特殊 ――――音声系・治癒系
 選択した対象全員(最大10名)に《覚醒》の呪文をかけます。目標が朦朧状態の場合、即座に回復します。ただし、元呪文にある《活動停止》を解除する効果はありません。
 また、目標が気絶している場合、生命力判定に成功すれば回復しますが、その際、元呪文にある「呪文判定の成功度分だけプラス修正」の効果はなく、常に「0成功」として扱われます(修正なしで生命力判定)。
 ●消費:3
 ◆準備:3秒
 ★前提:「素質1」《拡声》《覚醒》

癒しの歌(ヒーリング) 特殊 ――――音声系・治癒系
 選択した対象全員(最大10名)に《小治癒》の呪文をかけます。回復する量は1点です。
 一般に、同じ目標に対して治癒呪文を連続試行するとペナルティが累積していきますが、この呪文の場合はそれがありません!そのため、連続してかけ直せば、じわじわと傷が癒えていく演出ができます。
 なお、前提呪文の《眩惑》は、ペナルティ累積効果を打ち消すためのものです。
 ●消費:5
 ◆準備:3秒
 ★前提:「素質1」《拡声》《小治癒》《眩惑》

共振の歌(ビブラート) 特殊 ――――音声系・物質操作系
 選択した物品全て(最大10へクス分)に《粉砕》の呪文をかけます。無生物が対象なので、聴覚の概念は無視して下さい(とりあえず対象に音が届けば問題ありません)。
 威力は1D(防護点無視)で、その一撃で破壊できなければ一切の効果を発揮しません。小さな花瓶や食器の皿、コップくらいなら粉砕できるでしょう(最終的にはGM判断に任されますが、よほどサイズが大きいか高密度で重いものでもない限り、ガラスや陶器の小物は「壊れる」として下さい)。
 ●消費:5
 ◆準備:3秒
 ★前提:「素質1」《拡声》《粉砕》

抵抗の歌(レジスタンス) 特殊/知力+素質で抵抗 ――――音声系・呪文操作系
 選択した対象全員(最大10名)に《呪文抵抗》の呪文をかけます。呪文抵抗力に+2されます(呪文を拒絶し、抵抗に失敗した場合は+1)。効果中は「魔法の耐性L1」を持った時のように働きますが、-1修正で呪文を使う事はできます。
 霊薬や魔法の品の使用に関しては、特に何も影響を受けません。
 ■持続:6秒
 ●消費:5・維持も同じ
 ◆準備:5秒
 ★前提:「素質1」《拡声》《呪文抵抗》

子守り歌(ララバイ) 特殊/生命力で抵抗 ――――音声系・精神操作系
 選択した対象全員(最大10名)に《眩惑》の呪文をかけます。抵抗に失敗した者は強烈な眠気を催して朦朧状態になります。この朦朧状態は、持続時間が終了するまで継続し、自力で回復する事ができません。朦朧中は、あらゆる感覚判定や感覚を用いる即決勝負に自動で失敗します(例えば、盗賊が〈忍び〉技能で隠れてそばを通り過ぎる際、気付くかどうかの〈忍び〉対感覚の即決勝負は、判定不要で敗北します)。
 戦闘中にかけられた場合も同様で、朦朧状態に移行し、以降は自発的に行動できなくなります(ターン冒頭に知力判定で回復する事もできません)。攻撃されると能動防御は可能ですが、朦朧状態なのでペナルティがあります(能動防御-4、「後退防御」不可)。
 ただし、負傷したり正気の味方に肩を揺すられたりなど物理的なショックが与えられると、直ちに効果が解除されて通常の精神状態に戻る事ができます(《覚醒》の呪文をかけてもらう事でも戻ります)。朦朧中の出来事は、記憶に何もインプットされないので覚えていません。周囲で何が起きていても、後からその時の光景を思い出す事はできないのです。
 ■持続:6秒
 ●消費:15・10
 ◆準備:4秒
 ★前提:「素質1」《拡声》《眩惑》

魅了の歌(チャーム) 特殊/知力で抵抗 ――――音声系・精神操作系
 選択した対象全員(最大10名)に《忠実》の呪文をかけます。目標は術者に好意を持ち、その場で歌に聞き惚れます。この呪文は、目標が術者の姿を見えている必要があります(見えない相手に惚れる事はできません)。
 さらに術者は直接命令する事で(呪文発動後も歌唱を継続中の場合は、歌詞に命令内容を載せて聞かせる方法でOK)で、目標は知っている範囲で術者が一番喜ぶ行動を行います。ただし、身の危険を伴う事や、普段の行動基準と正反対の事を命令すると、目標は改めて知力判定を行い、成功すると即座に効果が解除されてしまいます。また、術者本人から攻撃を受けると、無条件で即座に呪文が解けてしまいます。
 なおこの呪文は、明確に敵対している相手には効果がありません。そのため、交戦中の敵対者にかけても無意味です。
 ■持続:6分
 ●消費:20・維持も同じ
 ◆準備:4秒
 ★前提:「素質1」《拡声》《忠実》

望郷の歌(ノスタルジィ) 特殊/知力で抵抗 ――――音声系・精神操作系
 選択した対象全員(最大10名)に《感情操作》の呪文をかけ、「望郷」や「郷愁」といった感情を送りつけます。抵抗に失敗した対象は、その場から離れて一刻も早く寝蔵へ帰ろうとします。ここでいう寝蔵とは「現在、休息・睡眠で利用している拠点・施設」となります(マインクラフトで言うところの「最後に寝たベッド(リスポーン地点)」です)。冒険者や遊牧民など定住拠点を持たない者の場合、今朝目覚めた町の宿屋や近場のキャンプ場まで戻ろうとします。
 戦闘中の場合、直ちに戦場から離脱を試み(背中を向けてなりふり構わず潰走するわけでなく、戦術的に撤退します)、寝蔵に向かいます。
 なお、既に寝蔵にいる状態で歌を聴いた場合は、何の効果も発生しません。
 ■持続:6分
 ●消費:6・維持は不可
 ◆準備:3秒
 ★前提:「素質1」《拡声》《感情操作》

鎮魂の歌(レクイエム) 特殊 ――――音声系・死霊系
 選択した対象全員(最大10名)に《死人返し》の呪文をかけます。対象がオートマトン系アンデッド(ゾンビ、スケルトン、マミー)の場合、抵抗の余地なく無条件で1Dダメージ(防護点無視)を与えます。ただし、元呪文に付随している退散効果は発生しません。
 また、これらのアンデッドは魔力で強引に稼働しているだけの「非生物」と見なされるので、例えば耳が破損していて音が聞こえない状態の死体でも、通常通り効果を発揮します。
 なお、対象が自我をもって自律行動しているアンデッド(吸血鬼やグールなど)の場合、全く効果はありません。
 ●消費:6・維持は不可
 ◆準備:6秒
 ★前提:「素質1」《拡声》《死人返し》
■ルナル世界への導入
【概要】
 ルナル世界における旋律系呪文は、特定信仰で神より下賜される独自呪文として存在します。具体的には「リャノ信者」である必要があります。

■魔法の素質と音楽能力
 旋律系呪文の習得には、リャノ信者でかつ以下の特徴が必要です。

「魔法の素質」(15cp/25cp/35cp)を1レベル以上
 「単系統の素質」(10cp/6cp/6cp)の場合は「音声系のみ」が有効です。
「音楽能力」(2cp/L)を1レベル以上
 当サイトの改変ルール下では、1レベルごとに2cp必要です(最大5レベルまで)。

 上の二つの特徴を持つ者は、以下の「歌姫」(0cp)の特徴を取る事が可能になります。この特徴は必ずしも取らないといけないわけではなく、旋律系呪文を取る事を希望する場合のみ獲得して下さい。この特徴は生まれつきのものであり、人生の途中で獲得したり、あるいは放棄したりする事はできません。

■歌姫
 「歌姫」(0cp)の特徴の内容は以下になります。

「特殊な背景/旋律系呪文の習得」(10cp)
 旋律系呪文を習得可能な者は、リャノ信徒のごく一部の者に限られます。
「秘密/旋律系呪文の存在」(-5cp)
 旋律系呪文の存在自体が、神殿によってひた隠しされています。
 たまに世間で「リャノ神殿秘伝の特別な魔法の歌」について騒がれる事がありますが、「《永久の旋律》の楽器を使って呪文の集中行動を代用してるだけ」と言えば大体納得されます。しかし定期的に「やはり秘密があるんじゃないのか?」と世間で言われ続けます。
「執念/生涯をかけて音楽活動を続ける」(-5cp)
 「歌姫」は、音楽全般に対して不屈の情熱を持っています。可能ならば、歌や演奏を仕事にしようとしますが、それが無理でも仕事の傍らに趣味として音楽活動を継続します。これは信念とか誓いではなく、生きていくために必要なモチベーションのようなもの(妖怪で言うところの「弱点/●●がないと生きていけない」系の類)なので、別途で「誓い/音楽に人生を捧げる」等を取る事で、さらにCPを稼ぐ事は可能です。

■習得呪文の変動
 「歌姫」は、神官以上になっても音声系以外の呪文を一切習得できません。水霊系呪文は勿論の事、独自呪文《肥料化》や《永久の旋律》、高司祭共通呪文に至るまで全てです(「神官」の間は、素質1の音声系呪文のみ習得可能となります)。
 その代わりに、高司祭になると上記の旋律系呪文(12種)を音声系の独自呪文として習得可能になります。なお、双子の月信者の呪文は「僧侶呪文」であるため、単系統の条件さえ満たしていれば習得可能です。つまり、旋律系呪文の前提条件の内、「素質1」と《拡声》だけ満たせば、全ての旋律系呪文が自由に習得可能です。

 ちなみに「歌姫」のキャラクターは、通常の「魔法の素質」は「一部の魔化アイテムの使用条件「魔術師のみ」を満たせる」以外の使い道がほぼなくなってしまいます。そのため、素質を単系統に制限してCPを稼ぐ方が合理的かもしれません。
■楽器の携帯
 ガープスには、楽器の具体的なデータが完全に欠如しているため、ここでルール化しておきます(楽器は全てTL3の世界のものです)。
 なお、〈楽器〉技能は楽器ごとに専門化が必要ですが、以下のように大雑把な分類が存在します。同じ分類に属する楽器を咄嗟に使う場合は-3修正が発生しますが、少し練習すれば(具体的には3回以上技能判定すれば)すぐに適応できるとします。

撥弦楽器(はつげんがっき) リュート、リラ、ハープ
擦弦楽器(さつげんがっき) フィドル
打楽器 タボール、タンバリン
木管楽器 フルート、パンフルート、バグパイプ
金管楽器 サックバット、ナチュラルホルン
鍵盤楽器 パイプオルガン、チェンバロ、クラヴィコード

●楽器
携帯型楽器(小型全般)   1kg、$100(特に表記がない限り共通)
(リュート)   
撥弦楽器
 現代のギターの原型。中世の弦楽器の代表格。吟遊詩人の楽器として最も一般的。旋律系呪文で使用可能。
(リラ)   
撥弦楽器
 現代のハープの原型。「ライアー」とも呼ばれる携帯可能な小型のハープ。リュートと並んで吟遊詩人の楽器として一般的。旋律系呪文で使用可能。
(ハープ)   
撥弦楽器
 大型化したリラ。リャノ信徒の神殿装備「ハープボウ」もこれに分類される。重さは軽量なもので2kg、最大で30kgのものまである。リラの方が小型で携帯しやすいため、リャノ信徒を除き、冒険者が携帯する例は少ない。旋律系呪文で使用可能。
(フィドル)   
擦弦楽器
 現代のバイオリンの原型。中世の擦弦楽器の代表格。リュートやハープと異なり、弦を弓でこすって音を出す。演奏時の構え方が非常に独特。奏者が歌唱するのはあまり一般的ではないが、旋律系呪文で使用可能。
(タボール)   
打楽器
 現代のドラムの原型。中世の小型の太鼓。軍隊の号令などでよく使われる。旋律を奏でられないので、旋律系呪文には使えない。
(タンバリン)   
打楽器
 手で叩く軽量の太鼓で、ジングル(鈴)が取り付けられており、タボールとは異なる音色を発する打楽器。タボールと共に打楽器としてよく用いられる。旋律を奏でられないので、旋律系呪文には使えない。
(フルート、パンフルート)   
木管楽器
 一般的な笛全般。中世の代表的な吹奏楽器。当時は縦笛(リコーダー)も横笛(フルート)もまとめて「フルート」と呼ばれた。パンフルートは現代のハーモニカの原型。旋律を奏でられるが歌唱ができないので、旋律系呪文には使えない。
(バグパイプ)   
木管楽器
 フルートと同じ原理の吹奏楽器で、フルートよりも音量が大きい。歌唱できないので、旋律系呪文を行使できない。通常のバグパイプはせいぜい重さ1kg程度だが、リャノ信徒の神殿装備「ハード・バグパイプ」は戦闘で盾代わりに使われるので非常に重い。
(サックバット)   
金管楽器
 現代のトロンボーンの原型。中世の金管楽器の1つ。木管楽器よりも音量が大きく、軍隊などで重宝される。旋律を奏でられるが歌唱ができないので、旋律系呪文には使えない。
(ナチュラル・ホルン)   
金管楽器
 現代のホルンの原型で、角笛から発展した中世の金管楽器の1つ。楽器としてよりも、軍隊における号令で主に使われる。右手をベルに突っ込んで風洞を調整すれば旋律を奏でられる。ただし歌唱ができないので、旋律系呪文には使えない。

設置型楽器(携帯不可または困難)   重量さまざま、価格さまざま
(パイプオルガン)   
鍵盤楽器(1t~、$18,000~、6へクス~)
 現代のオルガン全般の原型。構造的にはフルートと同じ吹奏楽器。超大型なので携帯不可・移設困難。TL3の社会だと、ほぼ公共物扱い。旋律系呪文で使用可能だが、視界確保が困難なので実用性はない。ただし一部リャノ神殿では、鍵盤が観客の方向に設置されたものが存在する。
(チェンバロ)   
鍵盤楽器(30kg~、$3,000~、2~3へクス)
 現代のピアノの原型。構造的にはリュートと同じ撥弦楽器。ピアノのように弦をハンマーで叩くのではなく、ギターのように弦を弾いて音を出す構造のため、ピアノとは音質がかなり異なる。携帯は無理だが、数名で運んで移設可能。旋律系呪文で使用可能。
(クラヴィコード)   
鍵盤楽器(8kg~、$1,000~、1へクス)
 モノコードから発展したと思われる最初期の鍵盤楽器で、チェンバロの小型版。パイプオルガンやチェンバロといった「本番」を弾く前の練習用。見た目はほとんど現代のシンセサイザー。携帯は困難だが、不可能というわけではない。旋律系呪文で使用可能。

■《永久の旋律》の注意点
 上記のルールにあるように、旋律系呪文の持続時間は大幅に短縮されますが、リャノ神殿の独自呪文《永久の旋律》が魔化された楽器を使えば「演奏が続いている間」に書き換える事が可能です。これにより、本来なら5秒程度で終わってしまう旋律系呪文を、何重にも重ねて持続する事が可能になります。

 ただし、《永久の旋律》が常に有用というわけではありません。例えば、精神操作系呪文がベースとなっている《魅了の歌》と《望郷の歌》は、旋律が途切れた途端に解除される《永久の旋律》の楽器を使ってかけてしまうと、色々と不都合でしょう(術者の視界から外れた途端、効果が切断して正気に戻ってしまいます)。
 そのため、通常の楽器と合わせて予備の楽器(何の魔化もなされてないもの)を携帯し、使い分けた方が良いでしょう。
■検証用キャラクター
■試験用冒険者隊 『三位一体姫(レアさまーず)』
 リャノ神の下位従属神 歌の女神イアが、別々の時空間に存在するレア様たちを集めて結成した冒険隊です。同じ時空間で一緒に冒険するため、とりあえず双月歴1095年現在のルナル世界のルールに合わせたキャラクターになっています。3人の中で、現在進行形でルナルの住人なのは、「レア様」ことレア・クラブフラットだけです。
 3人とも外見や性格が微妙に異なっていますが、存在する時間や次元が異なるだけの「平行存在」であり、本質的には同一個体です。本来ならば遭遇する事など絶対にない3人ですが、神の力でそれぞれの精神体が同一空間に集められた結果、お互いに遭遇・認識するに至っています。

 なお、歌の女神イアと時間平行存在のリルガは神様であるため、その時の都合に合わせた適当な「化身」を作って参加する形をとっています。2人は自分自身(本体)を「後援者」として取得しており、危機的状況の際は神のご都合主義でどうにかします。
 
■試験本編
[編集手記]
 管理人が最初に始めたTRPGは、グループSNEが開発した「ソード・ワールドRPG」(初版)なんですが、そこに登場する呪歌をまともに運用できたためしがありません。やはり、対象を無差別に取ってしまう部分が、どうしても運用の妨げになるんですよ。
 まあ、なんというか管理人が思うにですね?「呪歌の効果範囲が曖昧すぎて、アイデアを出そうにも基準がないから出せない」事が、呪歌があんまり使われない状況を助長していたように思います。
 どうもSNEが設計するゲームは、きちんとした基準が欲しい部分にかぎって「適当に決めていいよ」としている事が多く、それは「自由度を上げる」のではなく、逆に初心者ユーザーの「できる事が分からない」を増長させてるだけな気がします。
 TRPGに慣れてる古参ユーザーなら、過去の経験事例から「こういう状況では、おそらくこういう基準でやればいいだろう」と分かる。ですが、初心者ゲーマーは経験も知識もないから、そもそも「基準」が決められない。結果、独創性以前に何も行動を起こせないし、アイデアも出て来ないんですよね。
 要するに、自由度が高い事と設定を簡略化する事は違うんです。「設定が多いと初心者が混乱する」ってのはデザイナー側の情報提供のやり方に問題がありまして、新規者に段階的に知識を与えないで、一気に全部のルールを渡そうとするからそうなってしまうだけです。最初から情報量が多すぎると、そもそも世界に入っていけないから。
 ルール的に自由度を上げようと思えば、それこそガープス並に細かくルール設定しておかないと、いざ特殊な事をしようとした時、判定基準がないからどうしようもなくなりますし、プレイヤー側も身動きできません。初版ソードワールドの呪歌は、その典型だった気がします。

 当レポートで紹介した旋律系呪文は、「遠距離で不特定多数の対象を取れる」という呪歌の特性を残しつつも、様々な仕様制限をかける事で、あくまで「呪文の一種」という形でバランスを取りました。原作の呪歌は完全ノーコストですが、ガープスの旋律系呪文は呪文と同じ扱いなので、きっちりコストを支払う仕様になってます。
 そして最も大きな変更点ですが、呪歌は「対象は無制限」「音が聞こえてたら対象が見えてなくても効果あり」である一方、旋律系呪文は「対象は選択制」「見えてない対象は音が届いていても効果対象外」という真逆の性質を持つため、いくつかの呪歌は再現不可能であり、リストラせざる得ませんでした。
 あと、当サイト独自のリャノ信徒の独自呪文《永久の旋律》なんですが、この呪文を考案した当初から、旋律系呪文のような呪文が存在する事を前提にしてました。ただ、ルールを設定した当時は、リャノ信徒だけ膨大な量の独自呪文を持ってるのは明らかに不公平になるため、さんざん迷った末に旋律系呪文は設定しませんでした…しかし、この魔化呪文に実用性を持たせるなら必須であると、今回のレポートを書いて痛感しました。

 というわけで、個別の考察は以下。


(試験第1章 英国擲弾兵)
 ファイニア装甲擲弾兵のモデルとなっているのは、戦列歩兵が実際の戦場で活躍していた頃(17~19世紀頃)のイギリスの戦列歩兵部隊で、スウィート(あまくち)が謳っているのは『The British Grenadiers』(英国擲弾兵)と呼ばれるイギリス軍歌の替え歌となります。ユーキャンのCMに使われてた曲と言えば、分かる方もいるかもしれません。

 現実の戦列歩兵は、双方がマスケット銃を装備した結果、もうプレート鎧でも簡単に貫通してしまって役に立たないという事で、機動性を確保する意味で鎧は着用しない方向に振り切っており、ただド派手で見た目重視のデザインの軍服をまとっていただけでした。当然、弾に当たったら高確率で死にます(当時の医療は衛生管理が劣悪で、負傷したら破傷風などにかかって死亡したりする例は珍しくなかった)。
 しかし、現在のルナル(双月歴1095年)の戦場はそこまで振り切っておらず、まだクロスボウの方が多用されている時代なので、ファイニア側の擲弾兵も魔法で強化された頑丈なプレート鎧を服の下に着用している設定になっています。
 軍の移動に関してはリアリティを出そうと思い、延々と全力疾走したりはせず、歩調を合わせて早歩きで接近という流れにしました…実際、中世の戦場では敵前まで全力疾走なんてしていたら、到着して疲れ果てたところを簡単に討ち取られてしまうので、この方がリアルではあります。ガープスのルールは、そのへんがあまり再現できてないので、まだまだ改善の余地があると思っています。

 なお、この時代の戦列歩兵を実体験できるゲームもありまして、選択肢として「軍楽兵」も選択できるようになっており、戦場で実際に楽器演奏して、味方のマスケット銃の命中率を上げたりできます。銃兵と軍楽兵がガチ戦場で活躍していた時代は、おそらくこの時代が最初で最後でしょう。当然ながら、そこにロマンを感じるミリタリーオタクが一定数います。


(試験第2章 巨大ボス対抗手段)
 せっかくルナル世界で冒険してるんですから、たまには王道である〈悪魔〉討伐もやった方がいいと思い、今回の試験会場(?)に選ばれました。ちなみにスウィート(あまくち)が歌っているのは、アニメ「ストリートファイターⅡ」の登場人物バルログのテーマ曲『仮面のナルシスト』の替え歌です(知ってる人の方が少なそう)。

 ルナルの悪魔は、半分以上がサイズ2へクス以上になっているため、旋律系呪文で妨害するのにちょうどよい相手と言えます。ただ今回、とりあえず呪文抵抗を最優先で動いたため、それを生かす前に戦闘が終わってしまいました…さすがに「勇者姫リルガ」をちょっと強く設定しすぎたのかもしれません。ただ、前衛を務められるのが彼女1人という編成なので、レア様たちを全滅させないためには、タンカー役のリルガをひたすら固くせざる得なかったという事情があります。
 あと、《倍速》の呪文が1発でかけられたため、たまたま長期戦にならなかっただけで、発動に失敗していれば、普通に長期戦対応の旋律系呪文が活躍したと思います。


(試験第3章 手抜き説明)
 説明にあるように、旋律系呪文の強みは二つあり、「集団バフ・デバフが簡単にできる事」と「MAPレベルでの戦闘回避が得意」の二つです。前者はもう気合入れて2つやったので、最後は「戦闘回避」の例を出しておこうと思い、わずか3ページのMMD漫画でお茶を濁しました。
 ちなみにスウィート(あまくち)が歌っているのは、日本の童謡『七つの子』、一般に「カラスの歌」で知られる歌の替え歌バージョンです(ザ・ドリフターズがジョークで歌ったものが発祥と言われるヤツ)。

 この歌姫の運用方法は、英雄クラスよりもむしろ100cp帯の冒険者たちにとって使いやすい部類かと思われます。山賊やゴブリン相手なら、集団で攻めてきても、とりあえず回避できるのは大きいです。特に《望郷の歌》はコストが安く、準備時間もわずか3秒なので、奇襲されて戦闘が始まってしまってからでも、普通に間に合うでしょう。


(各旋律系呪文の総評)
 試験後、原作の呪歌と合わせて軽く評価してみました。

アーリーバード(旋律系呪文《起床の歌》)
 原作では「スリープクラウド」対策だと思いますが、そもそも古代語魔法を使う敵を雑魚でバンバン出すのは危険すぎるので、主に対ボス用の呪歌と思われます。
 旋律系呪文としては、眠りだけではなくて朦朧状態も解除できるので、原作よりは使いどころがあると思います。

キュアリオスティ(不採用)
 原作では「隠蔽している敵をあぶり出す」戦略兵器として、比較的使いやすい呪歌でした。一方、旋律系呪文は「見えてる対象を取る」のが大前提なので、仕様的に再現不可能です。

サモン・スモール・アニマル(不採用)
 原作では、ナウシカみたいな自然派ヒロインが動物に好かれるシーンを演出できるんですが、そういったビジュアル面以外で使い道に乏しく、何をどう利用すればいいのかよく分からない呪歌でした。食料にするにしても小さすぎるしなぁ…?
 グラスランナーが情報収集に使えるかも?とも思いましたが、連中が対話できるのはなんと「昆虫」と「植物」になっていて、哺乳類や鳥類とは対話できないんですな(笑) なんでそんなニッチな連中とだけ対話するんだよ?お前らは…
 ガープスで再現すると《動物召喚》ですが、旋律系呪文は見えない対象を取れないため不採用としました。

シング(不採用)
 原作では、少数精鋭が売りの冒険者側が魔法を封じられるのはかなり痛いので、いまいち使いどころがありませんでした。
 旋律系呪文で再現しようとすると、《ささやき》の呪文で歌うように仕向けるといった形になりますが、そもそもガープスの呪文は、詠唱する呪文の内容は特に定まっておらず、ぶっちゃけ今歌ってる歌を詠唱文に当てても全く問題ないため、本来の趣旨(呪文を禁じる)が全く再現できない事から不採用になりました。

ダンス(不採用)
 原作ではシリアス・シーンを強引にギャグマンガに変えてしまう、雰囲気ぶち壊し呪歌でした。効果が強すぎるのも問題でして、SWの世界で攻撃・回避-4って…ほぼ無力化じゃないですか(笑)
 実は旋律呪文では、最初は採用して《酩酊》を充てたのですが、《平和の歌》と役割が被るのと、「追加で知力を1点下げたところで、それほど優位性があるわけでもない」という事で、残念ながら不採用となりました。
 ガープスの環境下で「躍らせる」部分を忠実に実行させようとすると、《狂気》の4番の効果を適応するか、《大命》で踊り命令(?)を出すくらいしかないんだよなぁ…

チャーム(旋律系呪文《魅了の歌》)
 黎明期の呪歌「チャーム」はぶっ壊れ性能で、1ラウンドで即座に魅了される仕様だったため、ラスボスとの戦闘を完全破壊・セッション崩壊兵器として猛威を振るいましたが、完全版であれこれ制約が付け加えられ、さらに2.0以降は「チャーミング」という名称に変更され、戦闘中の運用では自衛以外の用途がほとんどなくなりました。
 旋律系呪文にコンバートする際は効果を弱体化し、《魅了》ではなく1つ手前の《忠実》に。さらに「完全に敵対的な相手には効かない」としました。元々、ベースとなっている《忠実》の呪文は、知らない相手にはコスト2倍、敵対者にはコスト3倍が必要で、戦闘が始まった後にかけても消費がデカい割にあまり実用性がない呪文なので、有効範囲は「知らない人」までに制限し、コストも2倍で固定しました(基本的には知らない人にかける頻度が圧倒的に多いと思われるので)。

ノスタルジィ(旋律系呪文《望郷の歌》)
 原作では、敵を追い払って戦闘を回避する戦略兵器として有用でした。ただし準備に4ラウンドもかかるため、その間に敵が迫ってきたらどうするの?的な問題がありました。
 旋律系呪文では、コストが安く、準備時間も3秒と短いので、山賊やゴブリンといった雑魚集団との交戦を避けるのにちょうどよい呪文だと思います。

ピース(旋律系呪文《平和の歌》)
 原作では使ってる人を見たことがない、本当に使い道のない呪歌でした。案の定、2.0以降は削除されています。
 一方、旋律系呪文としてはコストの安さが売りで、手軽に敵を妨害するのにちょうどよい呪文となってます。《行進の歌》もついでに使っておけば、味方前衛に対する効果的な支援となります。

ヒーリング(旋律系呪文《癒しの歌》)
 原作ではプリーストがいるのは当たり前の環境であるため、ほとんど出番がありません。辛うじて、リプレイ第1部の小説「かくもささやかな凱旋歌」でヒロインのユズが使ったことで、ちょっとだけ有名になったかも?
 旋律系呪文としては、「戦闘中は使いにくいけど非戦闘時にはかなり効率のよい範囲回復手段」となっています。原作のように1時間もタラタラと謳う必要がないので、冒険の合間に使っていって問題ありません。また、治癒系呪文特有の「同じ対象に連続して使うとペナルティ」という面倒な仕様をなくしたので、下手な治癒呪文より有効かもしれません。

マーチ(旋律系呪文《行進の歌》)
 原作では、運用が難しい呪歌でした。完全に敵だけにかけるか、味方だけにかける状況にしないと役に立たないんですが、その具体的な手段が乏しい。味方全員に高級耳栓でもつけてもらうという手段もなくはないですが、それだと普通に連携が取り辛くなり、想定外の状況に対応できない。結局、エルフ娘が精霊魔法6レベルの「コントロール・サウンド」を習得するのを待つしかない感じ…そんなん、待ってられるかよ(笑)
 旋律系呪文では「行進を強制する」部分を「無理矢理歩行させる」と解釈し、《うすのろ》の呪文で再現しました。移動力と「よけ」が下がるので、《平和の歌》と併用すれば、敵集団の戦闘力を下げるのに使えます。

モラル(旋律系呪文《規律の歌》)
 原作ではおそらく最も有用な呪歌で、特にこだわりがないならこれを取るのが定番でした。特に遠距離での射撃戦では「敵に呪歌が届かないほど遠距離」の環境であれば、味方だけに影響するので確実に有効です。
 旋律系呪文でも、1点とはいえ敏捷力を上昇できるので非常に有用なのですが、消費コストが10点と非常に重いのが問題でして、パワーストーンの併用がほぼ必須です。

ララバイ(旋律系呪文《子守り歌》)
 原作リプレイで「洞窟の前で歌って中の住人全てを眠らせる」といった事をやっていたのですが、いくら音響効果が期待できる洞窟でも、距離があると旋律が届くとはちょっと思えないので、あの使い方はどうなんだ?と、ちょっと疑問に思います(笑)
 旋律系呪文としては、《集団誘眠》と役割が被ってしまうため、効果を《眩惑》に落としました。で、肝心の《眩惑》の呪文の効果が曖昧すぎるので(精密さを売りとするガープスらしくもない…)、ここではっきりシステム上の扱いを定めました。基本的には「恐怖表の効果で「●ターン朦朧状態」を任意に発生させるもの」とし、効果を受けると朦朧状態に移行し、持続時間中は自力では回復できないという事で統一しました(元呪文が生命力抵抗になってるので、明らかに誘眠と同じ「眠気を催すアプローチ」と判断しています…感覚的には「ようつべで動画を見ながら寝落ちしかけている」のと同様の状態だと思われます(笑))。
 《誘眠》は眠らせる事で足止めする呪文ですが、《子守り歌》は朦朧状態にする事で足止めします…やってることの趣旨はほぼ同じだと思われるので(地面に倒れて寝るか、立ち寝(?)してるかだけの違い)、《誘眠》から《眩惑》に効果を落としても問題ない思われます。

レクイエム(旋律系呪文《鎮魂の歌》)
 原作の呪歌は独自のアンデッド化防止効果もあり、割と優秀な「無料ターンアンデッド」でしたが、そもそもアンデッド以外には効果がない事から汎用性に乏しく、意外と選択されない呪歌でした。GMがアンデッドを出してくれないと意味がない(「GMにアンデッドを出させない」効果として見れば意味はあるのかも?(笑))。
 旋律系呪文としては、効果対象が《死人使い》で創造されたオートマトン限定という事で、さらに使いどころが限定されてしまいます。ただ、そもそもベースの《死人返し》がそこまで有用な呪文でもないため、「射程が大幅に上がった」と考えれば、元呪文よりは使いやすくなってると思います。

レジスタンス(旋律系呪文《抵抗の歌》)
 原作では数少ない「有用とされる呪歌」の1つで、古代語魔法「カウンターマジック」の代用品として利用できます。無論、敵の抵抗値も上がってしまいますが、そもそもボスは抵抗力が高く設定する事が多いので、「抵抗される事前提」で戦闘すれば問題ない事、「支援呪文をメインで運用するなら抵抗値とか関係ない」といった各種事情が重なり、言うほど利敵行為ではなかったわけです。
 旋律系呪文としては、ベースとなる《呪文抵抗》の準備時間が3秒と少々長い事から、旋律系呪文化すると5秒もかかってしまう事になり、咄嗟に味方を強化するには少々使いにくい仕様になってます。でも、《呪文抵抗》自体がパワーレベル1でも十分すぎるほど有用な呪文なので、わずか5秒で10人まとめてかけられると考えれば、むしろ強い方だと思います。

レストア・メンタルパワー(旋律系呪文《慰安の歌》)
 原作は「6時間きっちり寝ないと精神力が回復しない」という謎の亀甲縛りルールがあったため、6時間きっちり眠れない環境では有用でした…どんな環境だ?(笑)。
 旋律系呪文としては、かけてもらった対象に《体力賦与》で「お返し」してもらう事で、短時間に疲労点を増やす事ができるチートっぽい手段がありますが、そもそも《慰安の歌》自体の単発コストが5点と重いので、連続して歌うのは困難です。また、無限増殖しようとすると聴衆の数を増やす必要があるため、少数精鋭が売りの冒険者が意図的にその技を使うのは、ちょっと無理があります。

ビブラート(旋律系呪文《共振の歌》)
 原作では、まともな活躍が全く見られない謎の呪歌でした。使いどころが分かりにく過ぎたんだと思います。そして2.0以降は、完全にリストラされてしまいました。
 管理人個人が大真面目に運用を考えた結果、これはおそらく「兵糧攻め」に使う呪歌だという結論に達しました。ファンタジー世界における備蓄倉庫の内容物の内、飲み水などは陶器の壺に入ってる事が多いと思います(樽の事もありますが、樽に入ってるのはだいたい酒)。壺の厚みにもよるんでしょうが、ビブラートで壺を割れるのであれば、飲み水に被害を与えて籠城側を苦しめる効果が期待できます。
 あと、魔術師の研究室などで魔法の薬を扱っている場合、入れ物は樽ではなく、陶器の壺やガラス瓶だと思われます(樽だと劇薬を入れたら穴が空いてしまう可能性が高いため)。つまり、魔法研究所に対する攻撃兵器として使えます。
 トラップとしての利用も、考えられなくはないです。例えば混合する二つの物質のうち、片方を瓶に入れておき、敵が侵入して来たらビブラートで瓶を割り、外にあるもう片方の物質と反応させてガスを発生させるなど…元素記号の概念すらないファンタジー世界でそれをやる場合、錬金術の知識が必須でしょうが。
 旋律系呪文でも基本同じ仕様にしましたが、ダメージ1Dでは水の入った壺を割るのは厳しいので、エリクサーが入った小瓶を割って経済ダメージを与える手段という事になると思われます。


(「歌姫」の拡張)
 とりあえずレポートではリャノ信徒限定になっている旋律系呪文ですが、他の種族でも使えるようにするのはアリだと思います。管理人個人が考えているのは、緑の月のエルファ種族のうち、音声系呪文を習得できるナクセル氏族(歌と踊りで伝承を伝える氏族)が適任だと思ってます…一般氏族なんで、森の外に出てくることあるのか?って問題がありますが。
 あとは、銀の月の翼人あたりですかね。ただ、翼人の場合、素で5系統の呪文を習得できるのに、音声系に制限されてしまうと苦しいかも?

 それと、上記の連中は両方とも《永久の旋律》がないため、せっかく時間かけて呪文を行使しても、6秒で終わってしまうのはちょっと使い辛いかも…やはり、リャノ信徒限定が無難か。


(スウィート(あまくち)って何?元ネタは?)
 2025年現在、ようつべでエレクトーンの演奏動画をUPしているチャンネル「あまくちエレクトーン」の女性演奏者あまくちさんが元ネタです(ググったら出てきます)。個人的にファンで、時々生放送で演奏されるのを見に行ってます。
 基本的にゲーム音楽の演奏者なので、ここを見てるゲーマーの人は入りやすいと思います。よければ見に行ってあげて下さい。だいたい月に1、2回、土曜日の夜21時以降に生放送で演奏をしています。ただし彼女、ちょ~シャイな性格らしく、ほとんどしゃべりません。代わりにしゃべってるのは、司会進行役のMCさん(おそらく身内)なので、女装してる男性演奏者の演奏会ではないのでご注意を(笑)

 …なんで彼女をここで持ち上げたかというと、実は管理人、酷く歪んだ妄想的な理由があって「ようつべでは一切課金しない誓い」を立てています。なので、せっかく凄腕の彼女がリアルタイムで演奏してくれてるのを聞いておきながら、1円も出さないという大変失礼な奴でして。
 なので、せめて罪滅ぼしで宣伝くらいはしておこうと思い、レポートの主役に充てました。こんなくだらないサイト、見に来てる人なんて10人もいるかどうか怪しいのですが、ほんのわずかでも彼女の利益になる事はしておきたいので、興味あったら見に行ってあげて下さい。


 ちなみに完全に私事ですが…

 管理人は幼い頃、エレクトーンを習い事としてやってました。もう忘れたけど、グレード6~7級くらいは取ってた気がする…グレード的には素人の領域ですが。
 ただ、市民会館で大勢の観客の前で教室の皆と合奏を披露した事なら何度かありますし、あるシティホテルの会場では、観衆の前でソロ演奏を披露した経験もあります。弾いた曲もしっかり覚えてますよ…ヤマハ音楽能力検定試験のグレード課題曲「メリーゴーランド」。最近調べたらこの曲、グレード5級の課題曲だったらしい。
 …あれ?自分は指導グレード(音楽教師になれるランク。5級以上)には達してなかったはずなんだが。もしかして教室の先生、私に5級試験を受けさせるために、こんな飛び級の曲を弾かせたのか…?

 で、そこまで〈楽器/エレクトーン〉技能のレベル上げをしておきながら、今は全く演奏してません。楽器すら持ってません。そうなった理由なんですが、実はこの習い事、親に強制されて嫌々やっていたんですよね。
 それが仇となり、最後はエレクトーン教室を無断で1か月も休んだ挙句、教室の先生の方から連絡が入り…親からも教室の先生からもこっぴどく叱られ、泣きながら謝罪しました。
 …なんでだろう?そもそも、自分の意志で始めたわけじゃないのに。大体、音楽なんて男の子がやる習い事とは到底言えなかったし(当時は)。当然、教室のメンバーは女の子しかいないので、男は自分だけ。相談できる友達もいない。自分はもう、音楽をやめて他の男の子と同じ場所に戻りたかった。なのに、それすら許されなかった。なぜ…??

 その理不尽な記憶だけが強烈に残り、以後30年以上の人生において、一度も楽器を触ってません。もうね、音楽を演奏する行為自体に生体拒否反応が出てまして、エレクトーンの鍵盤を見るだけで、鍵盤もろともエレクトーンをぶち壊したくなる時期すらありました。
 やっぱね、子供に習い事を強制するのは絶対良くないです。高い金を払って息子の貴重な若い頃の時間を削った挙句、出来たことと言えば、将来、食い扶持になったかもしれない才覚を1つ潰しただけ。完全に無駄投資。意味不明な英才教育にも限度がある。

 もし私が、楽しく音楽を続けていた時間線(笑)があるとすれば、今ごろ、あまくちさんのようにようつべで1人演奏会でも開いていたのだろうか。彼女を見ていると、そんな「あり得たかもしれないもう一人の自分」の可能性のようにも思えてきます。
 …今もその未練から、せめて彼女には自分と異なり、音楽で幸せになってほしい…そんな願いがあって、見に行ってるのかもしれません。

 …というか、こんな酷い目にあう哀れな子供は、私で最後にしてくれ。


 ―――暗闇で1人、サーチライトに照らされながら、
 独奏したメリーゴーランドの旋律。

 子供演奏会なのに、
 予想外のハイレベルな演奏を披露された事で観客たちは興奮し、
 会場全体で大拍手が沸き起こった―――




 その子供の頃の記憶が、オッサンになった今でも、
 脳裏に焼き付いて離れないんだ………
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